ワールドカップではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)にも注目

いよいよロシア・ワールドカップが始まります。ドイツの連覇を阻む国はどこか、得点王は誰か、メッシを超える選手が現れるのか、わくわくしますね。私は審判の世界にどっぷり浸かっているので、佐藤氏・相樂氏・山内氏の日本人レフェリートリオの活躍と、競技規則の改正で今回から正式に導入されるVARの活用を楽しみにしています。

VARとはVideo Assistant Refereeビデオ・アシスタント・レフェリーの略です。5月30日、ロシア・ワールドカップの壮行試合となったガーナ戦で、日本サッカー協会(以下JFA)主催としては初めて実施されました。この試合ではオーストラリアのレフェリーチームがVARも務めました。前半から雨の影響でスリッピーなピッチコンディションであったこともあり、球際での激しい攻防が展開されましたが、前後半を通じてVARが使用される場面はなく、最後まで審判の笛のみで試合が進められていました。昨年11月の欧州遠征・ブラジル代表との試合では、VARで吉田麻也選手がファウルを取られてPKを与えていた場面がありましたが、今回は実際に見ることはできませんでした。


VARとは、ピッチ上で起こった試合の結果を左右するような重大な判定ミスを、試合中継の映像を利用して、モニターに映し出される試合映像及びリプレイを使ってビデオ・アシスタント・レフェリーとアシスタントビデオレフェリーの2名がチェックし、もし大きな過ちがあれば主審に無線(現行の審判コミュニケーションシステム)使って知らせ、それを受けた主審が必要であればその映像をピッチサイドで見て、判定を訂正する、もしくは訂正しないというシステムです。さらに、これらのレビュー作業を助けるシステム・オペレーターが1名存在します。
このシステムは、2016年3月の国際サッカー評議会(以下IFAB)の年次総会で諮られ、オーストラリア、ブラジル、ドイツ、オランダ、ポルトガル、アメリカなど世界20ヶ国以上、10以上のリーグ、1600以上の試合で採用検討試験を行われ、2018年3月正式に承認されたものです。Jリーグでも2020年導入を検討し、テストを始めています。

「サッカーの判定は人間がするもの」「試合の流れを妨げるもの」などの理由でFIFAやIFABは導入を反対していましたが、判定のミスに加えて、審判の死角などで判断できなかったラフプレーなどの悪質な行為が増加し、一方で、放送用カメラの性能と台数が向上し、フィールド全体を細かく「監視」できる状況になっており、審判が判定するより早くあるいは正しく観客や視聴者が事象の詳細を把握してしまう事態がより顕在化していること、などにより転換をはかったものと思われます。
目的は、「試合を再審判しない」ことであり、判定が「はっきりした、明白な間違い」「見逃された重大な事象」である場合に対して行われ、「最小の干渉で最大の利益」をあげることを原理原則としています。
主原則として、次の①~⑥の項目が挙げられます。

  1. 主審はつねに決定しなければならない。
  2. 主審のみがレビューを開始できる。
  3. レビューに時間的制約はないー正確さは速さより重要である。
  4. 主審は透明性を確保するために可能な限りレビューは目に見えるところに留まる。
  5. 最終決定は主審によって行われる。
  6. 元の決定がはっきりした、明白な間違いであるときのみ変更される。

VARが携わる事象は、得点、PK、一発退場、退場・警告などの人間違い、の4項目です。

問題点として、挙げられている点は主に次の3点です。

  • VARは「判定が正しかったか?」ではなく、「判定がはっきりした、明白な間違いであったか?」ということです。はっきりとした間違いを識別し修正することであり、「最良の判定を見つけるものではない」という認識が重要となります。
  • 非常に例外的ケースを除き、主審はイエローカードかレッドカードかを提示する前にVARと相談することはできません。VARの存在を前提として意図的に判定を遅らせたり、敢えてプレーを流した後でVARに状況を確認するやり方は認められないとしています。ややもすると、重大なシーンで、主審が決断せずにプレーを継続してから、VARのチェック・レビューに任せることが起こり得ないかどうかが気になります。
  • VARが明確で一目瞭然の誤審では無いと判断した場合はそのまま主審の判定が保持されることになります。(参考:インプレー中の判定で誤審があったと判断された場合は「プレーが止まって再開するまでは、1つ前のプレーでの判定を修正できる」という
    既存のルールに従ってその状況までのプレー差し戻しを行うことができます。得点が生まれていた場合は取り消しができます。著しく不正なファールなどがあった場合のカード判定は保持されるということです)。

今回のワールドカップでは、主審35名、副審63名のほかに、VARとしてAFC1名、CONMEBOL3名、UEFA9名がノミネートされていますが、彼らの活躍を願って良いのか、願わない方が良いのか、不思議な感覚です。